どうも日本語で表現しにくいものがある。「involution」という概念はその1つだろう。日本語で「もつれさせること」と訳されるようだが、それだと大事なニュアンスが漏れてしまう。進化生物学では、この「involution」という言葉は「involve (含める) 」+「evolution (進化) 」を掛け合わせたものとして文字って語られている。進化は、生存競争と自然淘汰の末に、環境に適応できた種が系統樹を成していくばかりではない。それと同時に、全く異なる枝にある種が互いの存在を取り込み (involve) ながら進化する (involuting) のである。すなわちリン・マーギュリスの指摘したように、共時的に異なる種が関係性を取り結ぶことを踏まえて、「木ではなく網の目」のメタファーで語られるべきなのだ。
こうした視点を切り拓いたのが、生存競争や自然淘汰の原理の代名詞にもなっているチャールズ・ダーウィンだと言ったら驚くだろうか。異なる種が感応的に関係性を取り結んでいる様子は、合理的に最適な環境適応のみを重んじるダーウィニズムのイメージとかけ離れている。しかし実際、彼は膨大な時間を植物の研究に費やし、こうした側面についても先駆的な業績を残しているのだ。
皮肉なことに、彼のもう1つの偉業が人々の記憶に残っていないのは、われわれの社会や経済がどれだけ競争原理を重んじてきたかを物語ってはいまいか。本連載は、この忘れられてしまった観点を深掘りしたい。実際、プロジェクトは合理的な原理のみで説明できるものではない。進化 (evolution) するものとして、それも単体ではなく外にある異質なものを含み (Involve) ながら創発的・クリエイティブに変化するものとしても躍動しているだろう。その場合、プロジェクトはどのようにその外部と関係を取り結ぶのだろうか。本連載では「もつれるプロジェクト (Involuting Project) 」をその角度から見てみたい一心で探索を試みる。
もし本連載がプロジェクトについて語っていないように見えたとしたら、それは意図的であり不可避ですらある。なぜなら「プロジェクト」という言葉を使った途端に、プロジェクトの内と外に分類され、まっさらなダイナミズムを捉えにくくなってしまうからだ。必然的に、本連載はプロジェクトの外側について、プロジェクトという言葉とは一見無縁な研究分野から探検していくことになるだろう。こんな逆説的な試みが上手くいくのかは、今のところ誰にも分からない。
さて、前連載ではプロジェクトが「自己組織化するプロジェクトを見たい」と題して、オートポイエーシスに触れながらそうした側面を追ってきた。そこで本連載の皮切りとして次回は、オートポイエーシスの課題について指摘し、それらが相互に関係し合う「シンポイエーシス (Sympoiesis) 」の重要性を "making-with" という言葉と共に語ったダナ・ハラウェイを紹介したい。