The Project Theory Probe Journal

Issue 13
Nov. 30 2024

「もつれる」プロジェクトを見てみたい

八木翔太郎

第1回 Involuting Project

どうも日本語で表現しにくいものがある。「involution」という概念はその1つだろう。日本語で「もつれさせること」と訳されるようだが、それだと大事なニュアンスが漏れてしまう。進化生物学では、この「involution」という言葉は「involve (含める) 」+「evolution (進化) 」を掛け合わせたものとして文字って語られている。進化は、生存競争と自然淘汰の末に、環境に適応できた種が系統樹を成していくばかりではない。それと同時に、全く異なる枝にある種が互いの存在を取り込み (involve) ながら進化する (involuting) のである。すなわちリン・マーギュリスの指摘したように、共時的に異なる種が関係性を取り結ぶことを踏まえて、「木ではなく網の目」のメタファーで語られるべきなのだ。

こうした視点を切り拓いたのが、生存競争や自然淘汰の原理の代名詞にもなっているチャールズ・ダーウィンだと言ったら驚くだろうか。異なる種が感応的に関係性を取り結んでいる様子は、合理的に最適な環境適応のみを重んじるダーウィニズムのイメージとかけ離れている。しかし実際、彼は膨大な時間を植物の研究に費やし、こうした側面についても先駆的な業績を残しているのだ。

皮肉なことに、彼のもう1つの偉業が人々の記憶に残っていないのは、われわれの社会や経済がどれだけ競争原理を重んじてきたかを物語ってはいまいか。本連載は、この忘れられてしまった観点を深掘りしたい。実際、プロジェクトは合理的な原理のみで説明できるものではない。進化 (evolution) するものとして、それも単体ではなく外にある異質なものを含み (Involve) ながら創発的・クリエイティブに変化するものとしても躍動しているだろう。その場合、プロジェクトはどのようにその外部と関係を取り結ぶのだろうか。本連載では「もつれるプロジェクト (Involuting Project) 」をその角度から見てみたい一心で探索を試みる。

もし本連載がプロジェクトについて語っていないように見えたとしたら、それは意図的であり不可避ですらある。なぜなら「プロジェクト」という言葉を使った途端に、プロジェクトの内と外に分類され、まっさらなダイナミズムを捉えにくくなってしまうからだ。必然的に、本連載はプロジェクトの外側について、プロジェクトという言葉とは一見無縁な研究分野から探検していくことになるだろう。こんな逆説的な試みが上手くいくのかは、今のところ誰にも分からない。

さて、前連載ではプロジェクトが「自己組織化するプロジェクトを見たい」と題して、オートポイエーシスに触れながらそうした側面を追ってきた。そこで本連載の皮切りとして次回は、オートポイエーシスの課題について指摘し、それらが相互に関係し合う「シンポイエーシス (Sympoiesis) 」の重要性を "making-with" という言葉と共に語ったダナ・ハラウェイを紹介したい。

ぼくプロジェクト
おじさん

八木翔太郎

(13) 完了定義

WHAT’S LOVE* GOT TO DO WITH Pattern Theory & Living Designs?

Kitty Gia Ngân

In season 2 of this series, I will do something different. Each month, I want to introduce thinkers that use love as a guiding force in their respective field. In order to build a density of language, I will attempt to cross-write with The Architecture of Intimacy series. Which means the first thinker is Christopher Alexander.

Read the Zine here. (PDF 3.2MB)
Get the printable (A4) version. (PDF 1.9MB)

THE ARCHITECTURE OF INTIMACY

Kitty Gia Ngân

Intimacy is usually treated as a mystical accident, an overly romanticized and unconscious occurrence. We imagine it takes place after wine in a dimly lit restaurant with a boon companion. More typically, this word is understood as a feeling of closeness in the context of romance or sex. Yet, in this series, I want to introduce intimacy as the process of making oneself be seen and known, whether by oneself or another. The emphasis here is on seeing: knowing: transparency of self. This shift requires us to strip intimacy of its romanticized mystique and understand it not as a fleeting, accidental feeling but as a deliberate and attainable practice. There are concrete ways to create the conditions for this depth of connection. I believe that our capacity to cultivate intimacy is decisive to the humane development of all endeavors.

In order to introduce this new series, The Architecture of Intimacy, there are 3 things from the work of Christopher Alexander I must borrow from:

1/ Livingness in Relationships:

Alexander devoted his life to empirically studying the guiding force behind all life-affirming systems—a concept he initially called The Quality Without a Name and later on, Livingness (or Vitality / Lebendigkeit). I want to call it Aliveness, using the adjective form as the root word. When viewed through the lens of human relationships, the feeling of Aliveness is our experience of intimacy. When we reach a state of intimacy—of truly seeing and being seen—life-expanding creativity, effective communication, harmonious collaboration, and organic care naturally arise.

Photo courtesy of Mat Bet.

2/ Pattern Language for Intimacy:

According to Alexander, all beautiful things, events, and systems are made by taking incremental steps in the right direction of Aliveness. By probing existing human traditions and communities, I want to uncover the architecture of intimacy—the properties and patterns that enhance meaningful connections. My purpose is to increase the chance of meaningful observations and experiences by offering us a language to communicate them. Enabling more people to participate in the design process of relationships.

3/ Shared Feelings: The Root of Living Systems:

Alexander and his colleagues did one thing differently than other theorists of their time: They believed that everything has its roots in the reality of human feelings and that these emotions are usually shared. "Differences take up only 10% of our feelings; 90% of our emotions are shared" (quoted by Helmut Leitner in Pattern Theory). By tapping into these shared feelings, we arrive at the timeless ways of living that are abundant, joyous, and love-centered. But the only way to get there is through going within: This knowledge is always found through our sensitivity and self-knowledge, not in the world around us or in what we have learned.
In other words, Aliveness is not only the process of intimacy, it is only achieved through intimacy.

Following the discovery reported in journal 12, where the quality of relationships is a reflection of the revolutions we are creating in the world, this series recognizes relationships as the art of creating living order in systems. Plus, it wishes to give our experience of relationships as much life as possible, instead of remaining in the Zombie Mode typical of our modern world, which is characterized by disconnection and unconscious repetitions. Just like how musicians can train their auditory sensitivity, a sensitivity for living relationships is trainable. I propose we attempt probing it here at PTP.

南の島の Project Sprint

賀川こころ

Season 1 では、Project Sprint 構築チームの日々の思考をなぞるような連載を行ってきましたが、Season 2 では、わたしにとってより個人的な世界を Project Sprint 的に解釈してみたいと思います。

舞台は小笠原諸島・父島。わたしはこの島から、Project Sprint の執筆を続けてきました。東京都心から南に1,000kmあまり離れたこの亜熱帯の島に暮らして、もうすぐ丸6年が経とうとしています。4,800万年前の海底火山の噴火によって誕生した島々では、絶海の孤島に辿り着いた数少ない動植物がそれぞれ固有の進化を遂げ、それを取り巻くボニンブルーとも称される美しい海では、巨大なクジラが遊弋し好奇心旺盛なイルカたちが戯れています。外界との交通手段は6日に1便のペースで片道24時間かけて運行する定期船のみで、一度来てしまえば定期船の出港までの3泊4日を島に留まらざるを得ないという、現代人にとってなんとも訪問ハードルの高い島ですが、その困難さもまた、人がこの島を愛する理由のひとつになっています。

定期船の運行スケジュールに合わせ、船が入港中の4日間を働いて、船が東京への往復航海中の2日間を休むというのが、島の多くの人々にとって当たり前の暮らしになっています。世界の大部分が「1週間」という単位を軸に回っているのに対して、小笠原ではこの6日をひとつのタイムボックスとして、島の外の世界とは一風違う、けれど当事者にとってはとてもナチュラルな「スプリント」が進行しています。定期船の入出港という否応のない (ときたま自然の猛威に遭って前後したりもする) イベントを軸として、外界からの人々の来島に対応するためのさまざまなルーティンや型を構築し実践しながらタイムボックスが反復されていくあたりは、いっそ「週」という単位よりも身に馴染みやすいかもしれません。

島での暮らしはのんびりしているようでいて、実は意外と変化に富んでいます。五感で感じる季節の移ろい、人同士の距離が近い一方でかなり流動的な人の流出入、そして人間の何気ない行動で生活様式を変えてしまう自然界の生き物たち。この島で息をしていると、はじめから世界を客体化して分析しようとするのではなく、多様なステークホルダーが複雑に絡み合う生態系の中にまずはひとつの主体として身を置き、自身の行動と周囲の環境とが相互に影響しあいながら変化してゆく相対主義の世界を素直に生きてみるという態度が自然と身についてきます。

小笠原村は昨年3月に、「小笠原村観光振興ビジョン」として、「訪れる人、観光振興に携わる人、自然を守り育む人、そして村民が観光と関わり・つながる『人が主役の観光振興』」を掲げました。観光客のリピーター率が高いこの島では、「自然と人」が観光資源とされています。「またあの場所に行きたい」という思いは、よきインタープリターの存在に支えられているものです。思い返せばわたしも、この島の自然に惹かれると同時に、初めにわたしに小笠原の海を教えてくれたガイドの価値観や生き方に強い魅力を感じてこの島に通い始めたのでした。

この島に訪れたり移り住んだりする動機は人それぞれですが、この美しい自然を豊かなままに未来へ繋げていきたいという思いは誰しも同じでしょう。小笠原に関わる人々は、確たる正解やゴールが定められているわけではないながらも、島の未来を見据えて方向性を共有し、各々の距離感で緩やかに結びついて、「小笠原」というナラティブを編み上げています。日々目まぐるしく変化する自然環境を追いかけ、ときには能動的に変化し変化させながら、未来へと向かっていく人々の営みを、次号からご紹介していきます。

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今月の概念

八木翔太郎

概念 (concept) は、われわれの思考の素材であり制約である。それをそう呼ぶことで「ある」ように感じるのだとしたら、それは存在論的にわれわれの認識を形作るものですらある。そして、共有する共通言語となることで議論できる内容に深みが生まれるものでもある。プロジェクトが進むと、チーム内で共通認識が増えていくが、これは概念が共有されることと並行して行われている。

ここでは毎号、プロジェクトという現象を探査 (Probe) するにあたって、共著者の間で繰り返し語られてきたような、特に重要だと思われる概念を共有していきたい。現象学者のオイゲン・フィンクは概念を2つに大別した。語られる対象となる主題概念 (Thematic Concept) と、それを語るにあたって無意識的かつ無批判に活用している操作概念 (Operative Concept) である。後者の例としては、例えば「時間」を語るときに用いられる「流れる」「属する」といった概念が挙げられる。なぜそれが時間を語るために活用できるのか、それが妥当なのか明確に説明できないし検証されることは殆どない。だが、それを経由しなければ時間について人は語ったり思考することができないのである。

ここでも、「操作概念」にあたるような、われわれの思考の前提になるような概念をシェアしていきたい。もちろん、主題/操作概念の区分は恣意的で状況によって変わるものだが、あえて語られなかったが重要なものを取り上げていきたい。

Probe

  • Probe はもともと、ラテン語の Probare から来ており「テストする・検査する・証明する」といった語源を持っている。よく精査の意味でも使われており、レイ・ダリオが Work Principle の中で度々言及している「Probe」はその意味で、原因追及をしたり問い直す行為として用いられている。
  • ただ、ここでは探査のことを指す言葉として用いたい。Parker Solar Probe などがそれだ。探査とは未知の事物について探ることを指す。これは明確に精査と異なるものだと考えて良いだろう。
  • デザイン思考などで「問い」や「課題」が大事だとよく言われるが、下図で言えば右側の部分を指している。
  • 一方で、「どのような問いを立てるべきか」あるいは「これまで立てられなかった問いを立てる」ことの重要性は見落とされがちであり、下図で言えば左側を指している。これはアーティスティック思考とされる部分でもある。
  • Probeとは未知を探る行為であり、問いすら立てられなかった、すなわち「知らなかったことすら知らなかった」ことに向かう矢印である。そこで得られるものを「インサイト」と呼ぼう。そのインサイトを得ることで、世界認識が改まり、新たな可能性を見出すことができるようになる。
  • NASA の Probe も、そのような活動である。何も、問いが明確でゴールとリターンがハッキリしているプロジェクトだけが投資対効果を持つとは限らない。NASA が巨額の投資を集めて「太陽に触れる」衛星を打ち上げているのは、明確な問いや仮説があるからではなく、それをしなければ得られない未知のインサイトを得られるからなのである。これは、明確な問いに対して解決策を与えるプロジェクトとは、ある意味で真逆の矢印をもつプロジェクトではないだろうか。
  • Project Theory Probe も、こうしたインサイトを得るために活動しているプロジェクトである。探査するというのは、そうした未知に対する好奇と、思わぬ発見に対する感受性を要する試みだと言えるだろう。

Calling / Naming

  • 区別するということはどういうことか。A から B を識別することは、両者の間に線を引く (cross) ことである。初めてそれを引くことをNamingと呼び、2度目以降にそれを引くことは同じ区別を呼び出すことに他ならないのでCallingと呼ぶことができる。これは、例えば名付けるという行為でも見ることができる。赤ちゃんを「桃太郎」と名付け (Naming) たら、次にその名 (区別) を使うときには呼んでいる (Calling) ことに他ならない。
  • この call、あるいは区別 (mark) はジョージ・スペンサー・ブラウンが提唱した原始算術の、最も基本的な単位となる行為であり、存在の条件でもある。逆に言えば、観察者によって区別されない限りは存在がそれとして有ると認識されることはなく、観察者にとっては「存在しない」のに等しいのである。
  • 白紙に円を描くところをイメージしてみよう。円と呼んでいるものは、境界となる線分 (区別) によって生じている。さて、区別がなされる「前」は何だったのだろうか。
  • 白紙、すなわち存在がないということは「ゼロ」なのだろうか。しかしゼロから何かが生じるというのは矛盾している。むしろ「無限」であったと考えるべきではないのか。実際、白紙には外側があるが世界にはそれがない。
  • 何もない状態 (地=unmarked) を「無限」として積極的に認めることに関して、「ゼロ」に慣れ親しんだわれわれは戸惑いを覚えるかもしれない。例えば、描かれた円の外側は、描かれる前と同じ無限なのである。すなわち、全体と部分が一致するという奇妙な事態が発生する。
  • このことは、個体だけを見ていては生命現象を理解できず、場を含めて捉えなければならない、と清水博の指摘する話に通じてくるのであるが、これは別の機会で検討したい。

Concept of the Month

Shotaro Yagi

Concepts are the raw materials and constraints of our thinking. They are even shaping our perception ontologically when we feel their materiality by calling them as such. Furthermore, concepts create depth of our discussion by becoming a shared common language. Usually, common understanding among team members increases as a project rolls out. This happens parallel to sharing concepts between one another.

In this series, we share concepts that are mentioned repeatedly amongst authors in this journal and are seemingly crucial to probe the phenomena called project. Eugen Fink, a phenomenologist, divided the concept into two categories. Thematic Concept and Operative Concept. While the former functions as the subject of discussion, the latter operates silently and uncritically in our thoughts to explain the former.

Operative Concepts are, for example, notions of "flow" and "belong" when we discuss time. It is not only difficult to explain why they are suitable in this context (why not "dance" or "splash"?) but also is rarely ever questioned. Nonetheless, it is impossible for us to talk or think about time without using these concepts.

What would be shared here in every issue, are operative concepts that lay the groundwork of our thinking. These are the words that haven’t been explicitly mentioned but nonetheless important for our probing.

Probe

  • The word "probe" originates from the Latin word "probare" which means "to test, examine and prove." It also means to scrutinize. Ray Dalio often mentions "probe" in his Work Principle to refer to an act of investigating or inquiring for the root cause of a problem.
  • However, specifically in this journal, we would like to use this word to refer to an exploration. Parker Solar Probe is a good example. Probing refers to exploring unknown subjects. This is similar but clearly distinct from when we scrutinize with judgement.
  • It is often said that "questions" and "issues" are important in design thinking. It consists of the right hand side of the diagram below.
  • Meanwhile, the impact of "what to ask" is often overlooked. We may instead be asking "what kind of questions should be asked" and "what are questions that have never been asked." This consists of the left hand side of the diagram below. This is the realm where it’s referred to as artistic thinking.
  • Probe is an act of exploring the unknown. It is a pursuit directing towards those which never been asked, or in other words, "those we didn't know that we didn't know.'' Let's call those "insights." They enable you to change your world perception and open your eyes to new possibilities.
  • NASA space probe is one such activity. NASA hugely invests in launching satellites to "touch the sun" not because they have clear questions or hypotheses, but because they gain insights that are otherwise unavailable. A probing project, in this sense, aims in the completely opposite direction from what a normal project would progress to give a solution to a problem.
  • Project Theory Probe is one of the projects aiming to gain such insights. Probing is an activity which requires inexhaustible curiosity towards the unknown and sensitivity to allow unexpected discoveries.

Calling / Naming

  • How do we make distinctions? To distinguish B from A is to draw a line (cross) between the two. Drawing it for the first time is "naming" and drawing it the second time onwards is "calling," as it is nothing but an act of invoking the same distinction. A typical example is the act of naming a baby. If you name your baby "Momotaro," the next time you use that name (distinction) would be when you are calling him.
  • This call, or mark, is the most basic unit of primary arithmetic described by George Spencer Brown. It is also a condition for something to be perceived as existence. Unless distinguished by an observer, anything ceases to be recognized and thus be equivalent to nonexistent to the observer.
  • Imagine drawing a circle on a blank sheet of paper. What we deem a circle is created by a line (distinction) which forms a boundary. Now let us ask; what was it before any distinction was made?
  • Is a blank slate, the absence of existence, amounts to zero? If so, we face a contradiction to state that anything arises from nothing (zero). Rather, shouldn't we think of it as infinite? While a blank sheet of paper has its edge, a world does not.
  • We may feel awkward admitting a blank slate (unmarked) as infinite, especially for us who are so familiarized with the concept of zero. But once we admit it, the outside of a drawn circle is still infinite as it was before the circle was drawn. In other words, the whole is equivalent to its parts.
  • This goes hand in hand with Hiroshi Shimizu's point that it is not possible to understand life phenomena by looking only at the individual body. We must also take the field (ba) into consideration as there is no distinction without a whereabouts on which it takes place.

実践!プロジェクト推進のコツ

定金基

プロジェクトはマネジメントだ!とおもって PMBOK のガイドを読んでも、アジャイルにソフトウェア開発だ!とおもってXPを読んでも、自律型組織だ!とおもってティール組織を読んでも、はて?どこから手を付ければよいの?こんなに広大な環境変化の判断を伴わないとやっぱり変化できないの?という疑問をもつ人は多いのではないでしょうか?私はそうおもいました。

そこでわたしは、活動に1つ導入するだけで、環境が徐々に変化がみられるのではないか、という行動を集めるようになりました。この連載では、わたしのように名著を読んでも次の行動がピンとこないような人でも実践できる、いろいろなコツをご紹介しようとおもいます。

ところで、環境にともない変化し続けるのがプロジェクトです。すなわち、プロジェクトし続けることは私たち自身にも変化が伴います。というか変化しなければつづけられません。では、なにを拠り所にして変化するのでしょうか。それがプロジェクト実践で得られた知識、実践知です。
実践しながら探求する。探求したものを実践する。その両輪が回っている状態を目指さなければならないとおもっています。そして軸はあくまでも実践知にあります。なぜなら私達自身の変化をふくめて、未来は予測できないからです。実践者であり探求者でなければならないのです。

ということで、私が実践大好きマンだということがご理解いたたけたかとおもいますが、実践するって簡単に書いですが、本当に難しいとおもっています。
すでに私達が実験して効果が確認できているものも、他者による実践されたもの、など様々ご紹介しようとおもいます。


何が必要ですか?

自律型組織運営の運営手法 HOLACRACY (ホラクラシー) の定例会議で使用される問い。タクティカルミーティングプロセスのアジェンダの一つである「テンションのトリアージ」で使用される。
テンションとは"「今の現実」と「感知されたポテンシャル」の間にある明確なギャップ""現状とよりよい状態との間のギャップ"のこと。

テンションのトリアージ

次の手順でアジェンダに1つずつ対応する。

  1. ファシリテーターが「何が必要ですか?」と質問する。
  2. アジェンダの提案者は、必要があれば他の出席者に意見を仰ぐ。
  3. リクエストされたり承諾されたりした次のアクションやプロジェクトがあれば記録する。
  4. ファシリテーターが「必要なものは得られましたか?」と質問する。
[新訳]HOLACRACY (ホラクラシー) --人と組織の創造性がめぐりだすチームデザイン (2023) 著者ブライアン・J・ロバートソン 訳者 瀧下哉代 監訳 吉原史郎 発行所 英治出版株式会社 より

プロジェクトにおいては各メンバーのセンサーを十分に発揮する必要がある。言い換えると本人にしかハンドリングできない気づき (ひらめき・違和感) を昇華するということだ。
そこで、この問いをプロジェクトの定例会議に持ち込んで実験してみているが非常に有効であると感じている。
組織と違ってプロジェクトは短期的で素早く変化しやすいものであるため、現状とより良い状態が把握できている状態が作りづらいという面はあるものの、メンバーそれぞれの自律性を発揮できる。また、このアジェンダを定期的に続けることで、プロジェクトチームが個人のセンサーを重要視しているという姿勢を、実際に体験しながら理解することができる機会になるためチームの理解促進にも非常に有効である。

こんなシンプルな問いを投げかけられて本当に回答ができるのかと不思議に思われるかもしれないが、実際にやってみていただきたい。
最初に慣れない場合はホラクラシーで使われている促し方を使ってみてもらいたい。

そのテンションには次の4つのうちどれが必要ですか?

  1. 次のアクションやプロジェクトのリクエスト
  2. 情報収集やサポートのリクエスト
  3. 情報を共有したい
  4. 新しいアカウンタビリティやロールを作りたい
[新訳]HOLACRACY (ホラクラシー) --人と組織の創造性がめぐりだすチームデザイン (2023) 著者ブライアン・J・ロバートソン 訳者 瀧下哉代 監訳 吉原史郎 発行所 英治出版株式会社 より

どんな不明瞭な気づきが自分自身に浮かんできたとしても、このシンプルな問いかけにより、自分自身が何を求めているのかを問われることで、自分が本当に何が必要なのだろう、と改めて考えることができる。そのプロセスが習慣になると、非常に素早く気づきが昇華され続けるチームになり、プロジェクトが小さな実験の繰り返しで前に進むようになる。

Editor's Note

菊地玄摩

Project Theory Probe の Season 2 が始まりました。1年と少し前、Project Theory Probe Journal は3人で出発しましたが、今回は5人です。 Journal は今月から新連載と、マイナーチェンジとで大きく構成を変えることになりますが、これは出発当時、想像もしなかったような景色です。興味を持って読んでくださっている皆さま、支援していただいている皆さまの力で、Project Theory Probe は少し大きくなることができました。いつも感謝しています。また新しい冒険に出発しましょう。

私たちは Season 1 が始まったときと同様、数ヶ月先どんなことが起こるのか、見通すことができていません。シーズンの始まりですから、前月までの流れに沿って翌月を考えることもできません。それは、本当にできるのかな、ネタ切れにならないのかな、というような不安を少なからずもたらすものではあるのですが、一方で、未知と接していることを実感する場面でもあります。不安によって、世界と対峙する、自らの内にある力を感じるのです。Season 2 の始まりである現在、私たちはちゃんと不安と期待を感じることができています。これはきっと、よい感覚です。Season 2 が終わるときに、想像以上のところまでやってきた、と振り返るために。

一方で、確信もあります。Project Theory Probe は、他律的なプロジェクトのありようを拒否し、自律的なそれを模索する地点から出発しました。Season 1 は自律についての知見を蓄積しながら、次第にその限界に到達するように推移したのではないかと思います。現在の私たちの関心は、その限界そのものにあります。たとえば Season 1 で焦点となった自律と他律、その対では捉えることのできないものごとについて語り始めようとするのが Season 2 なのではないか、ということです。

「もつれる」とき、何かが何かを「もつれさせ」ているのでしょうか。あるいは「Intimacy」は、何かから何かへの「作用」なのでしょうか。自律か他律かという発想は、ときに非常に息苦しい世界観を生み出します。それはおそらく、ものごとを捉える時点で必然的に、存在を孤独するのでしょう。他律への拒否という態度の限界は、このあたりにありそうです。

Season 2 の連載のラインナップは、この感覚に自覚的です。私たちの思考を可能にする言語を調べ、生活空間の成り立ちを検討し、先駆者の研究を集め、身近な経験を再検討するとき、少しずつ、この感覚が明らかになる方向へ進んでいけるはずです。お楽しみに。